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病気について

日本人の2型糖尿病の特徴とその治療

文責 准教授 田尻 祐司

1)はじめに

 日本人の糖尿病の約95%を占める2型糖尿病は、遺伝的素因に環境因子が加わる事によって発症するという概念は万人の認めるところです。環境因子としては、加齢、肥満、過食、運動不足、ストレス、妊娠などが挙げられます。食糧事情の悪化した第二次世界大戦直後は人口の1%にも満たなかった糖尿病の患者数が、平成14年の糖尿病実態調査(厚労省)では約740万人と推定され、40歳以上では約10%前後に達している事がわかりました。この事実はわが国における糖尿病患者の増加には、環境因子が非常に大きな影響を与えている事を示しています。

 現在、糖尿病網膜症による失明は年間約3500人、糖尿病腎症による人工透析導入は年間約12000人と報告されており、糖尿病患者の寿命は日本人の平均寿命に比べて男性で10.2歳、女性で13.7歳短く、その原因は心筋梗塞、脳卒中、腎不全の増加であるとされています。糖尿病合併症を含んだ糖尿病の医療費は2004年度は1.9兆円で、国民医療費に占める割合は5.9%と脳血管疾患に次ぐ多さでした。問題は医療費の伸び率が他の疾患と比べて群を抜いて大きい事であり、糖尿病に対する総合的な対策を講じる事は国家的な急務であると言えます。 

2)糖尿病発症のメカニズム

膵臓のランゲルハンス島のβ細胞というところから分泌されるインスリンというホルモンは、体内で分泌される数多くのホルモンの中で唯一血糖値を下げる事ができます。多くのホルモンは血糖値を上げます。例えばアドレナリン、成長ホルモン、ステロイドホルモン、甲状腺ホルモンなどです。この事は、人類の長い飢餓の時代を反映して、食べ物が少ない環境下においても生きていけるように講じられた防御策であるとも考えられます。しかしながら、飽食の時代においてはこの事が裏目となってしまい、血糖値を下げる事が困難な状況となってしまい、現在の糖尿病患者の爆発的な増加につながっていると考えられます。

 他のホルモンと同様に、インスリンも血液中に分泌されるだけではその効果を発揮できません。インスリンの働きの場、それは主に筋肉であり、肝臓や脂肪組織でもあります。膵臓から分泌されたインスリンは血流に乗ってこれら臓器に到達し、そこで血液中のブドウ糖(つまり血糖)を筋肉、肝臓、脂肪細胞の中に取り込むという大変重要な働きを担っています。つまり①インスリンが膵臓から分泌されない(あるいは非常に少なく分泌される)か、②インスリンは分泌されているが働きの場で効果を発揮できていない、のどちらかあるいはその両方の状態においては血糖値は上昇する可能性があります。①の状態を「インスリン分泌低下(分泌不全)」、②を「インスリン作用低下(抵抗性)」と呼びます。

 やや耳慣れない言葉かもしれませんが、2型糖尿病を理解する上で避けては通れないので、今から一つずつ勉強したいと思います。

▲インスリンはブドウ糖を細胞にとりこむための『カギ』の役割
▲インスリンはブドウ糖を細胞にとりこむための『カギ』の役割
(東京女子医大 岩本安彦)
(東京女子医大 岩本安彦)

3)インスリン分泌低下(分泌不全)

 アジア人(日本人も含む)は欧米人に比べて、遺伝的にインスリンを分泌する能力が低い事がわかっています。欧米人はもともと狩猟民族で肉食や高脂肪食の習慣が数千年も前からありました。高脂肪食や肥満によりインスリンの働きが悪くなり(次項のインスリン抵抗性参照)、したがってインスリンを出す膵臓のβ細胞はそれにうち勝とうとして、この数千年の間に欧米人では非常に鍛えられて強くなっているのです。ところが、日本人は農耕民族で、和食、ごはんといった低脂肪食を食べてきました。したがって膵臓のβ細胞はそれほど鍛えられなくても十分に対応できる状態だったのです。その結果日本人のインスリンの分泌量は欧米人に比べて現在50%から75%低いという体質を持っているのです。

 このような遺伝的背景は変わらないまま、30年ほど前から食生活が高脂肪食の洋食中心に変わってきました。その結果、現在では肥満やインスリンの効きが悪くなるといった状態が非常に強くなってしまい、もともとインスリンの出す能力の悪い日本人が対応しきれなくなり、糖尿病が激増していると考えられています。 

▲日本人は空腹時血糖値100mg/dlを越える頃から、徐々に糖負荷後の平均インスリン分泌量が低下していくが、米国白人ではこのピークが120mg/dl前後にシフトしており、全体的な分泌量も日本人の倍以上である(関西電力病院 清野裕)。
▲日本人は空腹時血糖値100mg/dlを越える頃から、徐々に糖負荷後の平均インスリン分泌量が低下していくが、米国白人ではこのピークが120mg/dl前後にシフトしており、全体的な分泌量も日本人の倍以上である(関西電力病院 清野裕)。

4)インスリン作用低下(抵抗性)

 上記の通り、インスリンは血液中にただ分泌されるだけでは何の意味もなく、働きの場である標的臓器(肝臓、筋肉、脂肪組織など)で作用を発揮して初めて血糖値が下がります。働きの場の状況によっては、インスリンの効果が半分あるいはそれ以下になる事もあり、インスリンが分泌されていないのと同じ状況に陥る可能性があります。これをインスリン抵抗性と呼びます。インスリンの無駄遣いのような状態です。運動不足により筋肉量(特に下半身)が少なくなると、働きの場そのものを奪われてインスリンは効かなくなります。あるいは肥大した脂肪組織からは遊離脂肪酸や様々なサイトカインが分泌され、これらがインスリンの効果を著しく低下させる事が最近の研究でわかってきました。つまり、過食(量だけでなく甘いもの、脂肪の多いものを好む食の欧米化)、運動不足、肥満は、インスリン抵抗性の重要な環境因子であり、冒頭で書いたように最近の糖尿病増加の一番の原因であるわけです。最近流行の「メタボリックシンドローム」は、まさにこの状態であるわけです。

 3)で書いたとおり、日本人は元来欧米人に比べて少ないインスリン分泌で生命を営んできました。欧米人では血糖値が上昇しない程度の軽い体重増加(いわゆる小太り程度)でも、日本人では血糖値が上昇します。飽食の時代においては、日本人は非常に糖尿病になりやすい民族であると言えるわけです。

▲2型糖尿病患者のBMIの比較:一般人口においても日本人のBMIは低く、糖尿病患者ではその差がより顕著となる(曽根 博仁ら; 内科 97 (1) : 16-21, 2006)。
▲2型糖尿病患者のBMIの比較:一般人口においても日本人のBMIは低く、糖尿病患者ではその差がより顕著となる(曽根 博仁ら; 内科 97 (1) : 16-21, 2006)。

5)治療

 特定健診(いわゆるメタボ健診)が2008年度から開始された事からもわかるとおり、政府もようやく重い腰を上げて糖尿病を含む生活習慣病の予防に力を入れ始めました。これを見てもわかるように、糖尿病は予防が一番です。遺伝的素因であるインスリン分泌が低い事は仕方がありませんが、環境因子が大きなウエイトを占めるインスリン抵抗性は、そのほとんどの部分が予防できます。

食事療法と運動療法は生涯続けるものです。これらは習慣ですからなかなか変えることは難しいのですが、だからといってそのままでは何も良くなりません。少しずつでも修正していく事に努めましょう。これを「行動変容」と呼びますが、生活習慣病の治療の目的は正にここにあります。以下、食事と運動のお話を簡単に付け加えて、この稿を閉じたいと思います。

(1)食事療法
味付けの濃い食事、塩分や糖質の多い食事、脂肪の多い食事など欧米化した食生活をなるべく避け、昔ながらの和食中心の食生活を見直すことが必要でしょう。また、食事の内容もさることながら、食行動の異常を是正することはもっと大事かもしれません。肥満は心療内科の病気でもあります。歪んだ食行動を改めなければ、血糖コントロールは良くなりません。以下に食行動異常とはどういうものかを挙げてみます。

  1. 早食い:食事時間が異常に早い方をよく見かけますが、肥満を伴っている事が多いようです。早食い=大食いです。食事を開始してから満腹のシグナルが脳に伝えられるまでに平均20分くらいかかるようです。この間にたくさん食べればいくらでも食べられるわけです。予防策としては、よく噛む習慣をつけましょう。口に入れたら最低20回は噛むように心がけて下さい。 
  2. 朝食抜き、一日2食など:食事を抜いても痩せません。むしろ太りやすくなります。これは、人間は一日に食べるおよその量を記憶している事(つまり食事を抜くと次の食事の量が自動的に増える事)と、一食の量が多いほど血糖値も上がりやすくインスリンも多く分泌されて、脂肪に変わりやすい事が原因です。一日3食が守れないと血糖コントロールは困難です。 
  3. 夜遅く食べる:就寝中は基礎代謝が低下するため、エネルギーは蓄積しやすくなります。従って、夕食が遅い方は当然肥りやすくなります。夕食後最低2時間は空けてから床につくようにしましょう。夕食を摂って、夜食を食べるなどもっての他です。 
  4. 間食:これは「代理摂食」ともいわれており、他の行為の代替として行われている場合が多いようです。他の行為とは、例えばストレスであったり(ストレス食い)、TVを見ながら本を読みながらであったり(ながら食い)、お付き合いで食べたり(付き合い食い)などです。これらの食べ方は、生命を維持するための食事とは違い食べる事の目的が他にあるわけですから、満腹中枢を刺激しないためいくらでも食べてしまうという危険をはらんでいます。

 これら食行動の異常を是正することなく栄養指導の知識ばかり(何が何単位、食品の表分類など)を習得しても、意味が薄い事は誰でもわかる事です。「でも間食がやめられないから…」と言っていたら何も変わりません。本当にやせたいなら、血糖コントロールを良くしたいなら、まず食行動を変える努力を始めましょう。

(2)運動療法 
健康日本21でも提唱されていますが、運動は生活習慣病予防のためには欠かせないアイテムです。運動習慣の導入により糖尿病の発症を予防できたという研究や、運動により直接的に動脈硬化(心筋梗塞など)が予防できたなどの研究は多数あります。運動は、血糖値だけでなく血圧、脂質代謝(中性脂肪やコレステロール)、尿酸値、脂肪肝なども改善し、生活習慣病全般に良い効果をもたらします。また、運動習慣のある人は骨密度の低下が緩やかであり、骨粗鬆症の予防にもつながる事が報告されています。

 糖尿病の方は歩かない事が多いようで、特に下半身の筋肉が低下しているケースが多く見られます。まずは歩く事から始めましょう。酸素を十分に取り入れながらマイペースで歩いて下さい。「楽に続けられる」~「少しきついが続けられる」くらいが有酸素運動と呼ばれる強さです。運動直後に脈拍を測る習慣をつけましょう。運動が終わってすぐの脈拍が100~120/分くらいであれば良いペースで運動できた事になります。一日の運動量は30分以上を心がけましょう(細切れでも効果があることが最近わかってきました)。週に3~4日以上できれば良いでしょう(一日おきくらい)。また、脂肪を燃やす有酸素運動だけでなく、インスリンの働きの場である筋肉を増やす(減らさない)ためにも、レジスタンストレーニング(ダンベル、チューブを使った筋肉トレーニングやステップ運動など)も適宜取り入れたいものです。

 最後に、運動を始める前には必ず主治医に御相談下さい。網膜症が安定していない方、心臓や腎臓に問題がある方、その他合併症がコントロールできていない方、血糖コントロールが極端に悪い方、などは運動をできない場合もあります。運動は、楽しく、正しく、そして生涯にわたって続けましょう。

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