ミトコンドリアダイナミクス Mitochondrial dynamics

当医局では、従来から非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)発症のメカニズムや、脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンがNASHを改善させることを報告してきました(Metabolism, 2009; Horm Metab Res. 2018)。 一方で、我々はミトコンドリアに注目し、ミトコンドリアが細胞内の代謝状態や様々の細胞外シグナルを感知し、常に融合と分裂のバランスをシフトさせ、動的にその構造を変化させていることや、このミトコンドリアダイナミクスの破綻が、臓器・個体の発生や分化のみならず、糖尿病、NASHにつながることを明らかにしています(Nat Cell Biol, 2009; Diabetologia, 2015)。 今後はこれらの研究を更に発展させ、代謝性疾患や悪性疾患、そして老化などにおけるミトコンドリアの果たす役割を解明し、新たな治療につなげることができるように取り組んでいるところです。

プリン作動性化学伝達 Purinergic chemical transmission

ATPは全ての真核生物が合成するプリン化合物であり、細胞内のエネルギー源として使われます。一方、ATPは細胞外へ放出されることがあります。細胞外へ放出されたATPは受容体に結合し、プリン作動性化学伝達を活性化します。 興味深いことに、膵β細胞ではグルコース応答性にインスリンと共に分泌されたATPが、今度はインスリン分泌を抑制することがわかりました(Sci Rep 4, 2014)。 また我々は、肝細胞では食後にATPがVLDLと共に分泌され、NASHを惹起することを明らかにしています。 現在、このプリン作動性化学伝達の阻害薬を同定し(特願2016-71378)、糖尿病、NASH治療薬の開発を目指し、産学連携による非臨床試験を行なっています。

ケトン体の細胞保護効果 Cytoprotective effect of ketone bodies

インスリン作用不足によって起きる異常なケトン体蓄積は、アシドーシスを惹起し有害であることが広く知られています。 一方、生理的濃度で存在するケトン体は、単に栄養のソースとしてだけではなく多面的な作用を持つことが明らかになっています。 我々は、低血糖の時に生じる血管内皮の損傷が、生理的濃度のケトン体によってキャンセルされることを見出し、この少なくとも一部はERストレスの改善よってもたらされていることを報告しました(PLoS ONE, in press)。ケトン体がその保護作用を発揮するのは血管内皮にとどまらず、例えば膵β細胞においても重要な働きをしている可能性が高く、現在は、糖尿病やその合併症にかかわる様々な臓器におけるケトン体の役割に注目し研究を進めています。